COLUMNコラム
結核は過去の感染症ではありません
新型コロナウィルス感染症の流行に伴い、呼吸器感染症に対する人々の関心も高まっていますが、私たち「呼吸器専門医」を長くに亘って悩ませ続けてきた呼吸器感染症の代表として、「結核」を忘れてはいけません。
かつて4万人~5万人もの年間発生者数を認めていた結核も、医療水準や衛生環境の向上に伴い、早期発見や治療が可能な疾患になりましたが、現在においても年間2万人程度の新規発生患者が報告されており、いまだに日本の主要な呼吸器感染症のひとつです。
結核は結核菌に感染することによって起こる感染症ですが、結核菌に暴露されても必ず感染するわけではなく、また感染しても必ず発症するわけではありません。
排菌の程度や暴露された環境、時間などにもよりますが、大凡の目安で言うと、10人が結核菌に暴露された場合、5人が結核菌に感染して、そのうち生涯において1人が結核を発症します。
発症する時期については、新規感染から2年以内に発症する例を1次結核と呼びますが、ほとんどの例は新規感染から2年以上経過してから発症する2次結核と呼ばれる様式で発症します。
結核菌に新規感染した場合でも、通常の免疫力を有していれば、結核菌は体内での増殖を抑え込まれて休眠状態になりますが、その後しばらく経ってから高齢化や何らかの免疫を抑制するような疾病に罹患した場合、または免疫を抑制するような薬剤による治療を受けた場合、休眠状態になっていた結核菌が再度活動を開始して、2次結核として発症することがあります。
過去に報告されている新規結核患者数は、70歳台以上の高齢者が約6割を占めており、高齢化に伴う免疫力の低下や免疫抑制に関わる疾病罹患や治療が、2次結核発症に関与していると考えられます。
しかし、近年では都市部において40歳台以下の若年者の発症が増加傾向にあり、人口密度が高く密集している地域での、若年層への感染の拡がりが懸念されています。
若年層への感染拡大の理由について、戦後の日本において結核蔓延率が低下したため、結核に対する免疫力を有していないからという見解もありますが、いつの時代の感染症にも共通して言えることとして、感染症に対する関心や予防意識の低さがあると考えられます。
かつて結核蔓延国であった日本で生活していた高齢者に比べると、若年者の間では結核は過去の感染症と考えられていることが多く、新型コロナウィルス感染症の流行で皆が咳などの症状に敏感になる以前は、咳や痰が長引いても医療機関を受診せずに、知らない間に家族や職場内で集団感染に至る例が多く見られていました。
呼吸器感染症に対する人々の関心が高まっている今だからこそ、新型コロナウィルスへの対策だけではなく、広く様々な呼吸器感染症への関心を持っていただき、マスク着用やうがい手洗いなどの感染予防策や、毎日の自己体調管理や結核検診の受診などの習慣付けに繋げられる機会になればと思っています。
2週間以上続く咳や痰、全身倦怠感や呼吸困難感などを自覚されている場合は、お近くの「呼吸器専門医」にご相談ください。