COLUMNコラム
様々な職場における職業性喘息
職業性喘息とは
職業性喘息(occupational asthma)は、その病名の通り職場で発生する原因物質により発症する喘息のことで、持病であった喘息が職場環境により増悪する作業増悪喘息(work-exacerbated asthma)と合わせて、作業関連喘息(work-related asthma)と呼ばれています。
職業性喘息は、欧米では成人発症喘息の 5~15 % を占めると言われていますが、最近は職業性喘息の存在が広く知られるようになり、職業性喘息と診断される例も増加傾向にあります。
特定の職業別では、クリーニング業従業員では 25 % に、花屋従業員では 14 % に発症するなど、職業関連疾患全体としても、決して少ない比率ではありません。
職業性喘息の原因
職場で発生する原因物質は、感作物質と刺激物質(塩素や受動喫煙など)に分類され、感作物質は高分子量物質と低分子量物質に分類されます。
日本において指摘されている原因物質は 140 種類以上あり、職業と原因物質の一部を下記の表に示しますが、毎年新規化合物が追加されていますので、疑われる原因物質は多岐に亘り、原因物質の同定が困難な例も少なくありません。
高分子量物質:植物性物質、動物性物質、その他
職業 | 原因物質 |
看護師、医師、ゴム手袋使用者 | ラテックス |
こんにゃく製粉、製パン・製麺業者、精米業者、コーヒー豆取り扱い業者 | こんにゃく舞粉、小麦粉、そば粉、米ぬか、コーヒー豆 |
製材業、大工 | 木材粉じん |
ビニールハウス内作業者、生花業者 | キノコ胞子、花粉、昆虫 |
実験動物取扱者、獣医、調教師 | 動物の毛、フケ、尿蛋白、真菌 |
化粧品会社の美容担当者、理容師 | 人のフケ |
カキのむき身業者、干しエビ製造、いりこ製造業者 | ホヤの体成分、干しエビ粉塵、イワシ粉塵 |
柔道整復師 | トリコフィトン |
クリーニング業、薬剤師、清酒醸造業者 | 酵素洗剤、酵素 |
シリアル食品製造業者、チーズ製造業者 | ハチミツ、凝乳酵素 |
カーペット製造業者 | 植物ゴム質 |
低分子量物質:化学物質、薬品、その他
職業 | 原因物質 |
薬剤師、製薬会社従業員 | 薬剤粉じん(高分子量の薬剤の場合もあり) |
化学工場従業員、歯科医、歯科衛生士 | アクリル系モノマー |
製茶業者 | 精製緑茶成分(エピガロカテキンガレート) |
美容師、理容師、毛皮染色業者 | 過硫酸塩、パラフェニレンジアミン |
染料工場従業員 | ローダミン、シカゴ酸 |
金属メッキ取扱者、セメント製造、白金酸素センサー製造業者 | クロム、ニッケル、プラチナ |
塗装業者、ポリウレタン製造業者 | イソシアネート(TDI、MDI、HDI) |
超硬合金製造業者 | タングステン、コバルト |
印刷業者 | アラビアゴム、カラヤゴム |
補聴器製造業者、製版業者 | シアノアクリレート系接着剤 |
エポキシ樹脂、耐熱性樹脂製造業者 | 無水フタル酸、酸無水物 |
製材業者、大工、家具製造業者 | 木材粉じん(米杉、ラワンなど) |
はんだ付け作業従事者 | 松脂(フラックス) |
火薬工場従業員 | テトリル |
職業性喘息の診断と対応
診断には職場の誘発試験が最も有効ですので、職場からしばらく離れて休日を設けていただいた後に、業務に戻っていただき、それぞれの環境や時間帯での、症状とピークフローの変化を記録していただきます。
ご自身で「職場から帰宅する夕方頃に鼻水や咳などの症状が一番強く、休日は症状が良くなります」というような症状の変化や、「ホームセンターで働いていますが、特に農薬売り場と靴売り場にいると息苦しくなってきます」など、既に大凡の原因物質の特定をされている方も多いです。
職業性喘息と診断された場合も、通常の気管支喘息の治療内容に準じた薬物治療を行いますが、原則として職場の原因物質の排除や原因環境からの隔離が必要になります。
しかし実際には職場の原因物質の完全な排除は困難なことが多く、職場の理解を得て配置転換など原因環境から隔離できるよう働きかけますが、実際にはマスク着用や換気の徹底など原因物質の暴露量低減に努めながら、薬物治療を続けている方がほとんどです。
まとめ
職業性喘息の診断過程において最も重要なことは、成人発症喘息の例に対して、まず職業性喘息の可能性はないかと疑うことです。
喘息発症時の業務内容や発症するまでの過程、一日のうちで喘息症状が悪化する時間帯、休日における症状改善傾向の有無、また喘息症状以外にも職場でのアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎の症状についてなど、丁寧に問診することが大切です。
難治性喘息の原因となっている物質を同定して、職場環境調整を行うことで、これまでコントロールされていなかった喘息の症状が改善される例もあります。
職場で咳や喘鳴などの症状が増悪するという方や、成人発症の難治性喘息でお悩みの方は、ぜひ一度『呼吸器専門医』にご相談下さい。