COLUMNコラム
難治性喘息における生物学的製剤について
喘息の年齢別分布
喘息は小児から高齢者まで、全ての年齢層で発症する気道の慢性炎症性疾患で、気道の慢性的な炎症や狭窄に伴い、咳や喘鳴、呼吸困難などの症状が認められます。
厚生労働省の報告では、国内の喘息患者数は約 800 万人と推定されており、小児では乳幼児期の発症を多く認めますが、成人では小児喘息からの移行だけでなく、中高年以降に初めて喘息を発症する方も少なくありません。
小児喘息は 6 歳頃 までに約 80 % が発症するとされ、その後一部では症状が軽快するものの、症状が改善した小児喘息患者において、約 30 % が成人になってから再発するとも言われています。
成人期以降に初めて喘息の症状が出現する成人発症喘息は、成人喘息の約 70~80 % を占めており、そのうちでも中高年以降の発症が約 60 %を占めるとも言われています。
喘息を年齢別に分析すると、高齢者における喘息の有症率と死亡率が高い傾向にあることが示されています。
高齢化と難治性喘息患者数の増加
これまでに喘息が慢性疾患として広く認知されるようになったことや、吸入ステロイド薬などの治療薬剤の発展に伴い、喘息による死亡率は年々減少傾向となっています。
しかし一部では、充分な量の吸入ステロイド薬や長時間作用性β2刺激薬、長時間作用性抗コリン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬などを用いた治療を行っても、疾患のコントロールが得られない難治性喘息が存在しています。
近年では社会の高齢化に伴い、これまで充分な治療介入がされていなかった高齢者における難治性喘息の増加が問題となっています。
新たな生物学的製剤による治療選択肢の拡大
このような吸入薬を主とした従来の喘息治療では症状のコントロールが困難な難治性喘息に対して、直接免疫機構に働きかけて治療を行う生物学的製剤と呼ばれる新たな治療薬剤が近年多く登場しており、現時点で臨床の場において使用可能な生物学的製剤は以下の 4 種類が存在します。
また単に難治性喘息と言っても、遺伝的体質や環境的影響などの背景により色々なタイプ分類が存在すると考えられており、それぞれのタイプ分類や併存症に併せた生物学的製剤の選択やバイオマーカーの評価が可能になってきています。
近々これらの 4 種類の薬剤に加えて、特異的ヒト胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)を標的とする、抗TSLPモノクローナル抗体(tezepelumab)が 5 番目の喘息に対する生物学的製剤として登場する予定です。
既存の生物学的製剤は、炎症カスケードと呼ばれる順列の下流で放出される IL-4 / IL-5 / IL-13 などのサイトカインをターゲットとしており、主にTh2型と呼ばれるタイプの喘息に治療効果が期待されていました。
tezepelumabはTSLPの作用を阻害することで、炎症カスケードの上流に作用するため、既存の薬剤で効果が期待されていたTh2型の喘息だけではなく、非Th2型と呼ばれるタイプの喘息にも効果が期待されています。また、血清好酸球数、血清総IgE値、呼気NO値などを含む、複数のバイオマーカー反応が使用される予定です。
喘息治療における呼吸器専門医の連携
このように従来の喘息治療でコントロールが困難であった難治性喘息で、生物学的製剤を導入される方は徐々に増加傾向にあり、新たな治療選択肢としての拡がりが期待されています。
しかし生物学的製剤は一定の治療効果が期待される反面、継続的な治療による薬価負担の問題や、市販開始後の期間がまだ短く、今後の安全性に関するエビデンス確立のため、継続的な市販後調査が必要であることなどの問題も残されています。
これらの点に関しても、難治性喘息の方が安全に治療を受けられるように、クリニックと基幹病院間においても、呼吸器専門医同士が連携を行い、適切な治療導入と継続の場を提供できるように努めています。
これまでの治療では症状のコントロールが困難な難治性喘息にお悩みの方は、一度ぜひお近くの呼吸器専門医にご相談下さい。